第5巻第6号 昭和4年6月発行 (1929年)
http://library.jsce.or.jp/Image_DB/mag/gaho/kenchikukouji/05-06/05-06-1065.pdf
※著名工事視察の手引
−鉄道−
- 便利になる東京駅裏口
- [東京府]東京駅裏口工事が今年春から着手されることに。現在のホームに並んで新たに100尺のホーム3本を新設、地下道は降車口から6間幅1本、中央に乗り換え地下道4間幅1本、宮廷地下道1本、乗車口地下道6間幅1本の合計4本がこの新ホームの下裏側まで貫通し、裏口の1等2等、3等待合室、出札口、改札口などは全部3つの新ホームの下に収まる。なお外濠沿いの市電は長さ1800尺地下3尺のトンネルの中に入り裏口玄関の真下からすぐ階段で駅内に通じることになる。また中央郵便局との間には地下郵便電車を、表口との間には小荷物地下道を新設し建物は2階建てのハイカラなものができる由。
- 清水隧道の奇現象
- [新潟県][群馬県]上越北線清水隧道(3万1000尺)工事は残す所5000尺。最近清水峠(海抜6530尺)の直下を開削中、突然両側の硬質岩(閃緑岩)が異様なる音響とともに飛び出して作業工夫中に重傷者を出すような椿事が起こる(nagajis注:俗に「山ハネ」と呼ばれた)。調査の結果全山から来る圧迫作用により岩石に非常な圧力がかかるためと判明、1905年シンプロン鉄道がアルプス高峰直下を開削した時これと同様の現象があったという。
- 坂出琴平間急行電鉄
- [香川県]坂出から琴平へ中讃を貫く急行電鉄は土地買収も終わり、土器川鉄橋工事を中心として土工工事に着手。本鉄道は延長9マイル35チェーン、12月中に開通の見込み。
- 姫津鉄道
- [兵庫県]第二工区(飾麻群葛西−揖保郡觜崎間)は龍野経由に決定し6月中に起工の予定。目下沿線各町村当局と折衝を重ねて路線買収に関する地価などを調査中。岡山建設事務所では龍野川東の小宅村役場西に工事監督詰所建築工事を進めている。
−索道−
- 最新循環式の高野登山索道
- [和歌山県]架設工事は先月1日より工費50万円で起工。今年末までには開通予定。世界にその例が少ない循環式を採用し、ロープをドイツから輸入するほかすべて国産品を使用する。
- 屋島山のケーブルカア
- [香川県]屋島に架設のケーブルーカーは工費40万円工期2カ年を費やし先月20日に開通。長9町、徒歩なら1時間かかるところを4分間で昇降できる由。
ー道路−
- 自動車道路の構造規格
- 自動車の発達に伴って民営の自動車専用道路が各地方に申請されつつある。内務省では今回その許可に関する16カ条の規格命令書を発表した。構造規格に関するものの概略。(1)自動車専用道路は2車線以上の有効幅員を保たしむべし、1車線に要する有効幅員は3m。(2)屈曲部中心線の半径は140m以上とすべし。(3)屈曲部中心線の半径500m以下の場合にあっては屈曲部の内側において(1)に規定する有効幅員を相当拡大すべし。この場合にあっては内側曲線の両端より相当長の緩和接線を付すこと。(略)(5)勾配は1/20より急なるを得ず。(略)(8)視路は120m以上とすべし。(略)(9)有効路面及橋梁その他の工作物は6トン以上の自動車荷重に耐うる構造とすべし。(10)有効路面は適当なる材料をもって舗装すべし。(11)有効路面の両側には幅員0.5m以上の路肩を設くべし。(略)
−建築−
- 近く起工される第四師団司令部
- [大阪府]大阪城内第四師団司令部の新築設計は経理部の手で完成、遅くても8月までには起工することに決定。地下室共4階(一部5階)の鉄筋コンクリート造、外観は下半分は石材上半分は赤茶色スクラッチタイル張り。近代的古城風。建て坪500坪、総延べ坪2000坪。工費約100万円、明年秋までに竣工の計画。なお同経理部の手で設計中であった大阪軍人会館も鉄骨コンクリート5階建、総延べ坪2500坪、建築費70万円。来春起工。
- 三河島に文化住宅
- [東京府]市外三河島の千軒長屋一掃へ。鉄筋コンクリート造3階建で300世帯余りを収容できる。不足は同町荒木田に138世帯を収容する木造2階建を作って補う。
- 明々堂病院新築工事
- スラムテストを導入しコンクリートの強度を一定ならしめて建設中の同病院、すでに杭打、コンクリート基礎工を終わり目下建築下ごしらえの準備中。8月までには竣工予定。設計は伊場野成哲氏、直営工事で同氏が施行の任に当たり、現場主任は村松秀夫氏。
- 内務省本庁舎の復興建築
- [東京府]本年7月から起工。総延べ坪1万1000坪、地階共6階の鉄筋コンクリート造、地階および1階までの化粧は大略石円型、2階から6階まではタイル張り。総工費800万円、昭和8年竣工予定。
- 日銀大増築七カ年計画
- 日本銀行では震災後設置した仮建築物を統一収容するため地上4階ないし5階、総延べ坪1万500坪の新館を建築することとなった。様式は本館同様ルネッサンス式で工費約2500万円。7カ年継続事業とし3期に分って6月早々起工予定。設計は長野宇平治博士、地下室は3層に仕切られ、大貯水槽が設けられ、火災の場合は直ちに金庫をその中に没入せしめる仕掛けになる。
- 米国に世界一の摩天楼
- [海外]シカゴのレールロード・エンド・エアーライン会社では世界第一の摩天楼の設計を発表。75階建て、高さ1200フィート、パリのエッフェル塔を凌ぐこと250フィート。中に1000の自動車を収容できる車庫まで備えている。
- 出雲大社
- [島根県]明治14年建立の高3丈の大鳥居、建て替えへ。本年度内に着工、工費1万2000円−1万3000円を見込む。用材は阿里山の桧材を用いる予定。
−橋梁−
- 隅田にモダン鉄道橋
- [東京府]両国お茶の水間の省線延長工事の手始めとして両国橋に平行し工費約80万円の鉄道橋を架設することに。設計は鉄道省官房研究所の田中技師。550尺の長橋をわずか1カ年で架設し短期架橋の世界的記録を作る覚悟であると。なお同橋には従来の橋材より5割方強靱な我が国最初のシンコルン鉄材が使用されるはずで、同鉄材はすでにドイツへ発注されている。
- 吾妻橋愈々改築と決定
- [東京府]6月1日から改築に着手。震災で焼け残った同橋は明治20年に架橋されたもので、延長81.5間、幅7.65間。新橋は長82.5間幅11間になり、型は[金+交](注:2ヒンジ)鋼拱式、工費103万円をもって明年3月末に竣工予定。
- 新仁淀川大橋
- [高知県]吾川郡新淀川にかかった同橋は幅員2.5間、長375間、去る5月4日開通式。
- 笠置橋
- [京都府]木津川に架設。工費2万円、4月竣工。
- 金剛橋
- [岡山県]省線和気前に工費8万円幅3間のコンクリート橋として架設。4月初旬竣工。
−港湾−
- 修築費補助小漁港決定
- 農林省では漁村振興のため小漁港修築補助費として総額30万円を下記8港に交付することが決まる。千葉県勝浦港、神奈川県真鶴港、福井県三国港、三重県登志港、高知県清水港、秋田県象潟港、宮城県気仙沼港、兵庫県香住港
- 鉄道省の在外研究員出張員
- 鉄道省の本年度在外研究員および出張員が5月15日発表された。うち建設局および工務局関係は下記11氏。▲(在外研究員)東建技師 宮本保、岡建技師 出島嘉吉、大鉄技師岡山保線事務所長 鮫島午吉、門鉄技師門司保線事務所長 堀尾豊熊、神改技師 松岡修一、札改工事掛長 小坂進、札鉄函館事務所長白石鉄蔵、以上在外年限2カ年、9月下旬出発。▲(出張員)盛岡建設事務所長 清水三蔵、東鉄保線課長 岩井宇一郎、名鉄保線課長 斎藤飾、仙鉄改良課長 小宮甲四郎、以上1カ年、9月下旬出発。▲なおこのほか今回発表された研究所その他関係では、鉄道技師 中原嘉一郎(官研) 同 山本清一郎(工作) 東鉄技師 中村重訓 同 古在由正、同 鶴田正路、名鉄技師 古川完治、大鉄技師 池上信二郎、門鉄技師 関田友吉(以上研究員) 仙鉄技師 武弘邦輔、札鉄技師 宮島三千、大鉄技師 秦喜代次(以上出張員)の11氏。
- 来朝中のバー博士
- 5月14日、丸ノ内工業倶楽部において土木学会主催のもとにバー博士の歓迎講演会が開催された。会長田辺朔郎博士および八田鉄道次官の挨拶ののち博士の講演。17日には午前中国技館の相撲を見物、夕刻より八田氏の招待で星ヶ岡茶寮の晩餐会に臨まれた。
- バー博士叙勲
- 我が国工学界、殊に鉄道橋の発達に貢献せられた徳に対し勲二等に叙せられた。
- 谷口三郎氏
- (内務技師)大阪土木出張所勤務中だった同氏、今回本省土木局第一技術課勤務となった。
−雑録−
- 神田橋の袂に公園
- 元神田区役所跡へ理想的の小公園ができる。坪数は約700坪、今秋から工事に着手するとのこと。なお同公園はすべて児童向きの施設を施し、名物だった須田町の広瀬中佐銅像もここへ引っ越すかも知れない。
- 山口村貯水地
- [埼玉県]東京市水道局により埼玉県山口村に計画中の水道第二期工事(山田貯水地)は敷地等200万坪の買収も終わり、6月1日同敷地内で地鎮祭が行なわれる。貯水地は約150万坪、貯水量6億4000万立方尺、村山貯水地に比し約1倍半の水量を容れることができる。
- 復興土木事業頓に進捗
- [東京府]帝都復興事業中最難関とせられる工事も近ごろとみに進捗、その歩合。
街路 | 総数 | 竣工 | 工事中 | 未着手 | 進捗割合 |
---|---|---|---|---|---|
街路 | 52線 | 9 | 42 | 1 | 68% |
橋梁 | 112橋 | 7 | 33 | 5 | 90% |
運河 | 13線 | 1 | 12 | 0 | 70% |
- 万国工業会議事務進捗
- 3月末現在の参加申し込みは米国が第一で260名に達した。4月9日現在の内地出席会員は正員1700名、准員254名。なお提出決定の内外論文は計544名、そのうち土木建築に関するものは内地24、外国30、各分科の第二位を占める。
- 世界的発明の光弾性試験器
- 鉄道省官房研究所の田中豊技師が応力分布測定のための光弾性試験器を発明。
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/das/ContentViewServlet?METAID=00057119&TYPE=HTML_FILE&POS=1&LANG=JA
- 舗装剤で東京市が専売権
- 東京市がかねてから研究中であった路面簡易舗装用の瀝青剤の製造法に関しこのほど専売特許権を得た。これによると従来高級舗装に坪14−15円かかったものがわずか1円30銭ないし3円見当ででできる。第4巻第6号、第4巻第9号参照。
- 朝日新聞当選住宅図案決定
- 第5巻第4号で募集のあった朝日新聞社住宅図案募集に対し500案あまりの応募があった。入選図案甲乙両種を通じて85点を選定し、入選者が次の2氏に決定。甲種(3名) 大島一雄氏、小川光三氏、松田祿次氏乙種(3名)吉川清作氏、佐巴労正次氏、ガン・イラウ氏。他両種を合わせて10名。
ご意見・ご指摘・ご要望は下記まで
日本の廃道 nagajis (http://www.the-orj.org)