第5巻第9号 昭和4年9月発行 (1929年)
http://library.jsce.or.jp/Image_DB/mag/gaho/kenchikukouji/05-09/05-09-1113.pdf
※著名工事視察の手引
−復興と建築−
- 東京復興の進捗振り
- [東京府]東京市の統計調査課による数字。昨年中の市内新築家屋は1万5000棟(54万建て坪)で前年より2700棟増加、震災後の総計は5万5000余棟(165万建て坪)。15区中最高は本所区の1680棟、新築家屋の3割7分は商店向き、3割2分が住宅、2割8分が工場向き、1戸平均建て坪では麹町の72坪が最高、最小は四谷の21坪。3階以上の高層建築は約3割で、日本橋区の46棟が最高。
- 各ビルの地質調査
- [東京府]復興建築のなかにはすでに地下3尺も陥没したものがあり、また毎日数十の小さな地震があり、自然大ビルディングも修繕しなければならないものが出てきている。三菱地所部では丸ビル7階に帝大清水工学士が耐震振動計を設置してビルディングの地震動を計測してきたが、成績がよいので各ビルにこれを備え付けて試験し、さらに各ビルの地下傾斜をも調査することになった。これとともに建築学会や警視庁建築課などでも市内の大ビルの地質計測をなす予定(?)。
- 市政調査会館竣功近づく
- [東京府]大正14年日比谷公園の一角に起工して以来とかく物議の種となっていた(第2巻第7号、第3巻第4号、第3巻第9号)同会館も、すでに9分通り竣功、今年の10月に開館式を挙行するまでになった。総工費30万円、鉄骨鉄筋コンクリート造地上6階、その上に塔があり地階と合わせて11階建ての高層建築。地表高さ135尺、総延べ坪4770坪、中に座席3000人の大ホールがあり、竣功すれば東京市に寄付されることになっている。また竣功にあわせて復興展覧会も計画中。
−鉄道−
- 東京地下鉄工事路盤また墜落す
- [東京府]8月12日午後5時過ぎ、神田区仲町2丁目5番地先の東京地下鉄工事現場が東京市電の二線路とともに約200坪陥没墜落。前号に掲載した上野広小路の墜落(6月19日発生:東京地下鉄工事の路盤陥没 http://library.jsce.or.jp/Image_DB/mag/gaho/kenchikukouji/05-08/05-08-1089.pdf)とほとんど同様。幸い死傷者は通行人1人が軽傷したのみ。一ヶ月も酷暑が続いたところへ午後4時頃から降雨があり、30尺あまり掘り下げていた地下に浸水したのが原因とされる。地下鉄工事現場主任・平田技師の談話あり。
- 省線中野駅の地下道工事
- [東京府]中央線一の繁雑駅・中野駅の地下を25尺掘り下げ地下道路を建設中。高さ15尺幅4間の車馬道に両側6尺の歩道。この上に厚さ2尺5寸、重量24トンの鉄筋コンクリート板を載せ、その上を列車電車が通過する。この設計は鉄道省でも初めての試みで、通過煩雑なため9月下旬の深夜2時から4時までの間に架替する。なお工事には100余人の土工と50余人の大工が従事。来る10月中旬までに経費35万円を投じた新駅が竣工する。
- 豊岡、久美浜間工事意外に捗る
- [京都府]奥丹後より但馬に通じる省線豊峰線のうち豊岡久美浜間は今冬開通の予定だったが、工事が意外に進捗し久美浜木津間はすでに築堤工事の大半を終了。早く開業するものと見られている。
- 高野電鉄極楽橋駅
- [和歌山県]本建築は西本組の手で工事中であったがほとんど完成、同駅女人堂間のケーブルカー敷設工事も用地の立木を処理して7月から工事を進めている。
- 京都の愛宕索道開通
- [京都府]嵯峨清滝橋から愛宕山上に達する愛宕ケーブル(延長2030m)の工事、100万円を投じて昨年7月起工、このほど完成。ケーブル延長は1.26マイルで我が国第一、この間にトンネル6カ所、橋梁6カ所あり行き違い箇所は第四・第五トンネルの中間。車輌は9トン定員84名、所要時間11分で15分ごとに発車。
−橋梁−
- シドニー市の大架空鉄橋
- [海外]オーストラリア・シドニー港の中央両岸を連結する大鉄橋(海面上数百尺を無柱で渡る)について。すでに両岸の基礎工事を終え橋体工事が進んでいる。中央部に列車軌道4本、自動車道路2本、左右両側に人道2本を設置する。竣工の暁は約360間の海上鉄橋の下をシドニー港に出入りする2、3万トン級の船舶が4、5隻は平行して自由に航行できる。
- 鉄橋架設の新しい試み
- [佐賀県]熊本県高森線鉄道敷設工事の白川橋梁(第1巻第10号「白川仮橋全景(鉄道省熊本建設高森線)」http://library.jsce.or.jp/Image_DB/mag/gaho/kenchikukouji/01-10/01-10-0203.pdf、第3巻第9号「高森線バランスドアーチ橋工事(第一白川橋)」http://library.jsce.or.jp/Image_DB/mag/gaho/kenchikukouji/03-09/03-09-0578.pdf 参照)で日本初の跳躍式架橋を試み、鉄道建設史に新記録を作った熊本建設事務所河西技師が、今度は有明線第一工区の六角川架橋で全国初の艀式架橋を実施。六角川は泥沼のため足場を全く使わず、河岸において全部の組立を終わったうえで満潮時に艀を利用し対岸に渡すというもの。
- 越後の万代橋
- [新潟県]かねて工事中だった新潟万代橋(第5巻第2号「万代橋上部工事中の景」http://library.jsce.or.jp/Image_DB/mag/gaho/kenchikukouji/05-02/05-02-0980.pdf)が竣工。祝賀を兼ねて新潟商工会議所主催で物産展覧会が開催される予定。
- 岐阜の下渡橋
- [岐阜県]工費7万円を投じて工事中のところこの程竣工。長79間半有効幅員13尺で、全国でも新しいカンチレバー式吊り橋。
−会と人−
- 鉄道協会の新旧鉄相送迎会
- 7月31日開催。200余名出席し、来賓は江本新鉄相、青木次官その他17名。デザートコースに入るや井手鉄道協会長の挨拶あり、緊縮料理と緊縮スピーチの弁あり。続いて江木新鉄相のスピーチ。
- 九州に於ける混凝土講習会
- 九大工学部吉田徳次郎博士、および熊本高工吉田弥七教授の発案で、九州沖縄および山口各県土木課主催のコンクリート講習会が7月17日より19日まで3日間福岡市九大工学部において開催され、200余名が参加。講習題目あり。
- 貸家建築展覧会
- 工学博士片岡安氏を会長とする日本建築協会主催のもとに、大阪大丸にて貸家建築に関する展覧会が開かれた。室内装飾品、設備品、保健衛生に関する各種材料および構造材、同会がさきに募集した貸家建築設計図、同模型等を展示。会期8月13日−18日。
- 満鉄総裁に仙石貢博士
- 若槻内閣時代に鉄相を務めて以来引退していた仙石博士、73歳の高齢をもって満鉄総裁の要職につかれた。
- 鉄道省技術関係技師大異動
- 7月27日、鉄道省に次の大異動があった。
池原英治氏 熱海建設事務所長→建設局計画課長。 川口愛太郎氏 大阪鉄道局保線課長→熱海建設事務所長。 河原直文氏 熊本建設事務所長→建設局工事課長。 釘宮磐氏 名古屋鉄道局改良課揖斐川木曽川橋梁改修事務所長→熊本建設事務所長。 安部強氏 北海道建設事務所長→建設局勤務。 堀越清六氏 岡山建設事務所長→北海道建設事務所長。 平山復二郎氏 建設局工事課→岡山建設事務所長。 清水三蔵氏 盛岡建設事務所長→建設局勤務。 佐武正一氏 山口建設事務所長→盛岡建設事務所長。 田代瑞穂氏 岐阜建設事務所技師→山口建設事務所長。 新海英一氏 高知建設事務所長→建設局勤務。 近藤鉄太郎氏 盛岡建設事務所技師→高知建設事務所長。 杉広三郎氏 工務局計画課長→工務局勤務。 山田隆二氏 工務局技師→工務局計画課長。 三浦宇三郎氏 札幌鉄道局改良課長→工務局勤務。 井上隆根氏 工務局保線課→仙台鉄道局改良課長。 高山清氏 仙台鉄道局改良課長→札幌鉄道局改良課長。 青木精一氏 大阪鉄道局改良課長→大阪鉄道局保線課長。 志賀僑介氏 工務局技師より大阪鉄道局改良課長。 青木精一氏 大阪鉄道局志賀改良課長外国出張不在中代理。 古川光造氏 電気局電力課長→電気局電化課長。 雁野義雄氏 電気局電力課長。 勝巻平三郎氏 電気局電化課技師→東京鉄道局電気課長。 只安春重氏 岡山建設事務所勤務。
- 加賀山学氏
- (鉄道省前工務局長)7月中旬一度支那視察をなし、帰朝後いよいよ膠臍鉄道(注:膠済鉄道?)の顧問として8月末出発赴任。
- 久保田敬一氏
- 東京鉄道局→本省運輸局長
- 米山辰夫氏
- 東京第二改良事務所長→門司鉄道局長。
- 金森誠之氏
- 内務省技師。欧州工事視察のため8月2日渡欧。
- 野口寅之助氏
- 逓信技師→電気局水力課長。
−雑録−
- 建物の掃除で表彰された婦人
- [海外]北米フィラデルフィアの建築会議で建築上貢献の厚かりし人々81名を表彰。その中に「建築物の掃除および注意に対する工女長」リバ・ケーレー婦人が選ばれている。
- 囲み記事:GRAFZEPPELIN号
- ドイツを出発し世界一周中のツェッペリン伯号が8月19日、日本に飛来。
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